公認会計士のAI活用
公認会計士の仕事はAIでなくなるのか。監査の手続ごとに、移る作業と残る判断を分ける。
仕訳の検査は全件分析のツールへ、監査意見は監査人のもとに。監査計画から意見表明までの流れに沿って、AIが入る手続と公認会計士にしかできない判断を整理しました。経営者ディスカッション46分の録音を、調書の材料にする例も載せています。
公開日:更新日:執筆・運営:Klang AI AB
監査の流れで見る、AIが入る手続と公認会計士に残る判断
「会計士の仕事はAIに代替される」という見方は、監査を一つの作業として見たときの話です。監査計画から意見表明までを手続に分けると、AIが速くする部分と、監査人が自分で決める部分ははっきり分かれます。会話の記録が生まれる場面も、手続ごとに違います。
右端の列は、どの手続にも人と人との会話が残ることを示しています。仕訳の分析ツールも監査調書のシステムも、この会話の中身までは記録しません。Klangは監査ツールではなく、分析や調書の作成もできません。受け持つのは右端の列の、話した内容を文字にして探せるようにする部分です。
| 手続 | AIが速くする作業 | 公認会計士に残る判断 | 会話の記録が生まれる場面 |
|---|---|---|---|
| 監査計画 | 前期の調書や開示資料から論点の候補を拾う | 重要性の基準値、リスクの高い領域の特定 | 経営者ディスカッション、監査役等との計画の協議 |
| リスク評価 | 業界の動向やニュースの要約 | 不正リスクの識別、経営者の説明の信頼性の評価 | 不正に関する経営者への質問 |
| 内部統制の評価 | 業務記述書と規程の照合の補助 | 統制の不備かどうか、不備の重要度 | 担当者へのウォークスルー、IT部門へのヒアリング |
| 実証手続 | 仕訳の全件分析、請求書や契約書の読み取り | 抽出された異常の意味、追加の手続の要否 | 異常な取引についての担当者への質問 |
| 意見の形成・報告 | 調書の記載漏れの確認の補助 | 監査意見の種類、監査上の主要な検討事項の選定 | 監査役等への結果の報告、経営者との最終の協議 |
公認会計士がAIで代替されない理由は、法律の書き方にある
公認会計士の将来性を考えるとき、AIの性能より先に見るべきなのは、誰が監査証明をしてよいかを決めている条文です。
公認会計士法第2条第1項は「公認会計士は、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすることを業とする」と定めています。第47条の2は、公認会計士か監査法人でない者が、法律に定めのある場合を除いて、この業務を営むことを禁じています。
金融商品取引法第193条の2第1項は、上場会社などが提出する財務計算に関する書類について、特別の利害関係のない公認会計士か監査法人の監査証明を受けることを求めています。同条第2項は、内部統制報告書にも同じ監査証明を求めています。
会社法第396条第2項は、会計監査人が取締役や使用人に対して、いつでも会計に関する報告を求められると定めています。ヒアリングは、この権限にもとづく監査の手続です。第397条第1項は、職務の中で取締役の不正の行為などを見つけたとき、遅滞なく監査役に報告することを会計監査人に求めています。
AIがどれだけ仕訳を速く検査しても、監査証明に署名し、その結果に責任を負うのは公認会計士です。変わるのは時間の使い方で、全件分析で浮いた時間は、異常の背景を経営者に質問し、説明を証拠と突き合わせる仕事に回ります。
例:期末監査の前の経営者ディスカッション46分を、調書の材料にする
3月決算の精密機器メーカーで、業務執行社員と主査がCFOと経理部長に話を聞いた場面です(架空)。期末監査の計画に向けた面談で、録音をKlangにアップロードし、文字起こしと下書きを作りました。
下書きは「概要」「経営者の説明」「検討する事項」「依頼事項」の4つの見出しで作りました。法人の調書の様式に見出しがあれば、その名前と順番を指示に書いておくと、下書きも同じ並びになります。
「監査チームで検討する事項」は、会話に出た話題を拾い上げただけのものです。リスクの評価や重要性の判断は入っていません。数字と日付は、タイムスタンプから元の音声を再生して確かめてから調書に移します。
文字起こし(抜粋)
- 03:15CFO下期は、半導体向けの受注が上期より2割ほど増える見込みです。
- 09:40CFO8月に買収した子会社は、計画より売上が遅れています。確認1
- 09:58業務執行社員遅れの理由と、今後の見通しを教えてください。
- 17:22経理部長大型の装置は、10月から据付が終わった時点で売上を計上しています。確認2
- 24:05経理部長7月に担当者が1人辞めたので、支払の承認は私がまとめて見ています。確認3
- 31:48主査不正や、その疑いについて把握されていることはありますか。
- 32:01CFO把握しているものはありません。
- 41:30経理部長子会社の事業計画と取締役会の資料は、来週の水曜までにお送りします。確認4
Klangが作る下書き
- 面談の概要
- 2026年10月8日、期末監査の計画に向けた経営者ディスカッション
- 出席:CFO、経理部長、業務執行社員、主査
- 経営者の説明(要点)
- 下期は半導体向けの受注が上期より約2割増える見込み
- 8月に買収した子会社は、売上が計画より遅れている
- 大型装置は10月から据付完了の時点で売上を計上している
- 7月に経理の担当者が1名退職し、支払の承認を経理部長がまとめて行っている
- 不正やその疑いについて、把握しているものはないとの回答
- 監査チームで検討する事項
- 子会社の業績の遅れと、買収時の計画との差
- 売上を計上する時点の変更の有無と、その根拠
- 担当者の退職後の、支払の承認の手順
- 被監査会社への依頼事項
- 子会社の事業計画と取締役会の資料(期日:10月14日(水))
記録にする前に確認すること
- 確認109:40 業績の遅れが減損の兆候にあたるかどうかは、監査人が評価します。下書きに残すのはCFOの説明までで、評価の欄は空けておきます。
- 確認217:22 「10月から」が計上基準の変更を意味するのかは、この発言だけでは分かりません。契約書と検収書で据付完了の時点を確かめ、変更前の基準も経理部長に質問します。
- 確認324:05 承認者が1人に集まったことが内部統制の不備にあたるかは、監査チームの判断です。発言は質問で得た説明として記録し、職務分掌の規程と承認の記録で裏付けを取ります。
- 確認441:30 「来週の水曜」は、面談日(10月8日・木曜)から数えて10月14日(水)です。下書きでは日付に置き換えて、依頼事項の期日欄に入れました。
ヒアリングの文字起こしは監査証拠になるのか:調書に移すときの線引き
文字起こしが示すのは「面談でこう説明された」という事実です。説明が正しいかどうかは、別の資料で確かめるまで分かりません。調書に移すときは、下書きの中身を次の4つに分けておきます。
会社法第397条の報告が必要になる場面では、いつ何を聞いて何を知ったかの経緯が問われます。時刻つきの文字起こしは、その経緯をたどる手がかりになります。
経営者の説明
質問への回答として記録します。売上の見込みや計上の時点は、契約書、検収書、取締役会の資料で裏付けを取ります。
監査人の評価
下書きには入りません。不備かどうか、兆候にあたるかどうかは、監査チームが自分の言葉で書きます。
依頼事項と期日
「来週」「月末」は日付に直し、受け取ったら調書の参照番号を振ります。期日を過ぎたものは次の面談で確認します。
不正に関する質問と回答
質問の言い回しと回答をそのまま残します。音声の時刻が分かれば、誰がいつどう答えたかを後から再生して確かめられます。
公認会計士法第27条・第49条の2と、録音を法人の外のサービスに預ける前に決めること
公認会計士法第27条は「公認会計士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。公認会計士でなくなつた後であつても、同様とする」と定めています。第49条の2は、監査法人の使用人などの補助者にも、業務の補助で知り得た秘密について同じ義務を課しています。
| 決めること | 決める人 | Klangでの扱い |
|---|---|---|
| クラウドに預けてよい情報の範囲 | 法人の情報セキュリティの担当部署 | 録音と文字起こしをAIの学習に使わず、通信時・保存時とも暗号化します |
| 被監査会社への説明と了承 | 業務執行社員 | 録音の前に、目的と保管の方法を出席者に伝えます |
| 閲覧できるメンバー | 主査 | 被監査会社ごとにフォルダを分け、監査チームのメンバーだけを招待します |
| 監査契約が終わったあとの扱い | 法人の品質管理の担当 | 録音と文字起こしは会議ごとに削除できます |
| 法人の環境の中で動かすか | 法人のIT部門 | オンプレミスでの導入にも対応しています |
1つの監査期間で試す順番:四半期レビューから期末の報告まで
- 01
四半期レビューのチーム打合せ
被監査会社の人が出ない所内の打合せから始めます。専門用語や勘定科目名がどこまで正しく文字になるかを見ます。
- 02
期末監査の計画の経営者ディスカッション
出席者の了承を得て1回録音し、法人の様式の見出しで下書きを作ります。主査が直した時間を測っておきます。
- 03
内部統制のウォークスルー
担当者が手順を話しながら画面を見せる場面は、Zoom・Teams・Google Meetの会議ボットで録音すると、発言と時刻がそろって残ります。
- 04
監査役等への報告のあとで比べる
期末の報告まで終えたら、手で書いていた前期と、ヒアリングの記録にかかった時間を比べます。
往査先のヒアリングを、会社名で引ける記録に
スマートフォンやICレコーダーの録音をアップロードすると、文字起こしとAI要約ができあがります。オンラインのウォークスルーは、Zoom・Teams・Google Meetに会議ボットを入れて録音できます。前期のヒアリングを会社名や論点で横断検索でき、WordやExcelに書き出して調書に添付できます。
- フリープランは¥0で、録音の時間や本数に上限はありません。1ファイル10GBまで取り込めます
- 話者の自動識別はプロプランの機能です(月払い¥1,180、年払いなら月あたり¥980、税込)
- 会話データは学習に使われず、オンプレミスでの導入にも対応しています
よくある質問
公認会計士の仕事はAIでなくなりますか。
なくなりません。報酬を得て財務書類の監査証明を業として行えるのは、公認会計士法第47条の2により公認会計士と監査法人だけです。上場会社の財務諸表には金融商品取引法第193条の2で監査証明が求められています。AIで減るのは仕訳の検査や証憑の読み取りにかかる時間で、異常の意味を確かめて監査意見を形成する仕事は残ります。
監査の現場では、AIはどの手続に使われていますか。
使われているのは、仕訳データの全件分析、請求書や契約書の読み取り、前期の調書からの論点の拾い出しといった手続です。重要性の基準値、不正リスクの識別、統制の不備の評価、監査意見の種類は、監査人が決めます。
AIだけで上場会社の監査を済ませることはできますか。
できません。金融商品取引法第193条の2は、上場会社などの財務計算に関する書類について、特別の利害関係のない公認会計士か監査法人の監査証明を求めています。AIは監査人が使う道具の一つで、監査証明の主体にはなりません。
経営者へのヒアリングの文字起こしは、そのまま監査証拠になりますか。
文字起こしは「面談でこう説明された」という記録です。説明の裏付けは、契約書、検収書、規程、承認の記録などで別に確かめます。何を監査証拠としてどう使うかは、監査人が判断します。
経営者ディスカッションを録音すると、公認会計士法第27条の守秘義務に反しませんか。
第27条が禁じているのは、正当な理由なく業務上の秘密を漏らすことや盗用することです。録音とクラウドのツールを使うかは、法人の規程に沿って公認会計士と監査法人が判断します。学習への利用、暗号化、閲覧できる人の範囲を確かめ、出席者の了承を得てから録音してください。
監査チームでKlangを使うと費用はいくらですか。
文字起こしだけなら、フリープランで費用はかかりません。CFOと経理部長のように声ごとに発言を分けるにはプロプランが必要で、月払いは1ユーザー¥1,180、年払いは月あたり¥980です(税込)。