定性分析
定性分析とは。定量分析との違いと、進め方
件数では答えが出ない問いを、インタビューや自由記述から扱う方法。コーディングの手順と、結論の妥当性をどう担保するかまで整理します。
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執筆・運営:Klang AI AB
BASICS
定性分析とは
数量では表せないデータ——言葉、行動、文脈——を扱い、「なぜそうなるのか」を説明する構造を見つける分析です。
「解約率が5%上がった」は定量の事実です。これに対して「なぜ解約したのか」を知ろうとすると、解約した人が語った理由や、その前に起きていたことを読み解く必要が出てきます。この部分を担うのが定性分析です。
定性分析の目的は、代表性のある数字を出すことではありません。何が起きているかを説明できる枠組みを作ることです。したがって「10人中7人が言った」という数え方には、定量調査ほどの意味はありません。7人が言ったことよりも、その7人がどういう状況でそう考えたかのほうが、多くの場合は重要です。
COMPARISON
定量分析との違い
どちらが優れているかではなく、答えられる問いが違います。定性で仮説を作ってから数値で確かめる方法も、数値で見つかった変化の理由をインタビューで調べる方法もあります。
| 定性分析 | 定量分析 | |
|---|---|---|
| 答える問い | なぜ・どのように | どれくらい・どちらが |
| データ | 発話、記述、観察 | 数値、件数、スコア |
| 件数 | 問いと分析方法に応じて決める | 推定精度や検証方法に応じて決める |
| 進め方の例 | 集めながら解釈を深める | 事前の仮説を数値で検証する |
| 結果の形 | 説明の枠組み、類型 | 割合、差、相関 |
| 限界 | 対象や文脈を越えた適用には検討が必要 | 数値だけでは背景を説明しきれない場合がある |
HOW TO
進め方の5ステップ
手順そのものは単純です。難しいのは、途中で出てきた面白い話に引っ張られずに最後まで同じ基準で進めることです。
- 01
問いを立てる
「ユーザーの声を聞く」ではなく、「初回設定で離脱する人は、どの時点で何が分からなくなっているのか」のように、答えの形が想像できるところまで絞ります。
- 02
データを集める
インタビュー、自由記述、観察、既存の会話記録。同じ問いに対して複数の種類のデータがあると、後の解釈が安定します。録音する場合は、目的と扱いを先に伝えます。
- 03
文字にする
発話を文字起こしします。要約された議事録ではなく、実際に使われた言葉が残っている形が必要です。言い回しそのものが分析の材料になるためです。
- 04
コーディングする
発言や記述に、意味のまとまりごとにラベルを付けていきます。次の節で詳しく扱います。
- 05
テーマにまとめ、反証を探す
ラベルをまとめて、いくつかのテーマにします。ここで必ず、テーマに合わない事例を探します。合わない事例を説明できて初めて、枠組みとして使えます。
CODING
コーディングの実際
コーディングは、文章に付箋を貼っていく作業だと考えると分かりやすくなります。最初は細かく、あとでまとめます。
1回目:そのままの言葉で
解釈を入れず、語られた内容に近いラベルを付けます。「招待メールが迷惑メールに入った」のように具体的に書きます。
2回目:まとめる
似たラベルをまとめて、一段抽象度の高いラベルにします。「導入初日につまずく箇所」のような粒度になります。
3回目:関係を見る
まとめたラベル同士の関係——原因と結果、前提と例外——を整理し、説明の枠組みにします。
- 1人でやる場合も、迷ったケースは理由を書き残しておきます。後で基準がぶれたときに戻れます。
- 分類辞書を使う業務分析を分担する場合は、最初の数件で定義と境界の理解を合わせます。再帰的テーマ分析など、別の方法にはその方法の品質基準を使います。
- ラベルの一覧(コードブック)を更新しながら進めます。途中で増えたラベルは、前のデータにも遡って適用します。
- 「その他」が増えてきたら、軸が合っていない合図です。分類をやり直す判断も含めて記録します。
VALIDITY
妥当性をどう担保するか
定性分析は解釈を含むため、「そう読めなくもない」で終わらせない工夫が要ります。
- 反証を探す。枠組みに合わない事例を意図的に探し、見つかったら枠組みのほうを直します。
- 原文に戻れるようにする。結論から実際の発言までたどれる状態を保ちます。要約の要約は使いません。
- 別の人と読み方を検討する。解釈の前提や別の説明を言葉にします。採用した方法によっては、同じ結論への一致を目標にしない場合もあります。
- 複数の種類のデータで確かめる。インタビューで出た話が、問い合わせの記録にも現れるかを見ます。
- 限界を書く。何人に聞いたか、どういう人に偏っているかを明記します。書いておけば、誤って一般化されることを防げます。
TOOLS
道具と、AIの使いどころ
専用ソフトがなくても始められます。表計算ソフトで、発言とラベルを並べるだけでも成立します。
生成AIは、1回目のコーディングの下書きと、大量のデータからの候補出しに向いています。一方で、どの軸で切るかの判断と、反証を探す作業は人が担う必要があります。AIは与えられた枠組みに沿って整えるのは得意ですが、枠組みそのものを疑うことは求められていないためです。
実務的には、AIにラベルの候補を出させて、それを見ながら人が軸を決め、決まった軸でAIに全件を仕分けさせ、最後に境界の事例を人が確認する、という分担がうまくいきます。どの段階でも、結論の根拠になる発言は原文で確認してください。
WORKED EXAMPLE
分類辞書を使う方法と、解釈を深める方法
定性分析には複数の方法があります。業務で同じ基準に仕分ける作業と、研究者の解釈を通してテーマを構成する作業では、品質の確かめ方も変わります。
BraunとClarkeの再帰的テーマ分析では、分析者の解釈を作業の一部として扱います。すべての分析に、固定したコードブックや分析者間の一致率を必須条件として当てはめるわけではありません。このページの分類手順は実務用の一例です。
| 目的 | 進め方 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 問い合わせを同じ基準で分類 | 分類辞書の定義と境界を合わせる | 迷う例や担当者間の差を見直す |
| 経験の意味やパターンを探る | 原文を読み直し、解釈とテーマを更新する | 分析者の前提と解釈の根拠を記録 |
WORKED EXAMPLE
解釈が変わった理由をメモに残す
架空の発言「招待メールは来たが誰が設定するか分からなかった」を読み、最初の印象から別の説明も検討します。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 最初の解釈 | 設定手順の説明が不足しているかもしれない |
| 自分の前提 | 担当者は事前に決まっていると思っていた |
| 別の読み方 | 手順ではなく役割分担が曖昧だった可能性 |
| 次の確認 | ほかの発言と運用手順を読み、結論を保留する |
発言そのものが残るから、解釈に戻れる
Klangはインタビューや会議を話者ごとに文字起こしし、要約から元の発言へたどれる形で残します。コーディングの材料になる「実際に使われた言葉」が失われません。
- 話者を分けた文字起こしで、誰の発言かが残ります。
- 要約や分析の結果から、もとの発言へ戻って確認できます。
- 複数のインタビューをまとめて読み、共通する論点を取り出せます。
よくある質問
何人に聞けば十分ですか。
必要な人数は、問い、分析方法、対象者の幅、得られる話の詳しさによって変わります。「新しい話が出なくなること」を目安にする方法もありますが、再帰的テーマ分析などに共通する終了基準ではありません。人数を選んだ理由と、対象者の偏り、問いに答えるための材料が十分かを記録してください。
定性分析の結果を数字で報告してもよいですか。
「10人中7人」のような書き方は、読み手に統計的な代表性があるかのように受け取られます。使う場合は、対象の選び方と人数を必ず添えてください。割合ではなく、どういう条件の人がそう述べたかを書くほうが誤解が少なくなります。
議事録があれば分析できますか。
要約された議事録だけでは足りないことが多くあります。定性分析では言い回しや言いよどみも材料になるため、実際に話された言葉が残っている文字起こしが必要です。
定量調査と、どちらを先にやるべきですか。
何が起きているか分からない段階では定性が先です。仮説がある状態でその大きさを知りたいなら定量が先になります。多くの場合、定性で仮説を作り、定量で確かめる往復になります。